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貧困と住まいのセーフティネット
前回のブログで、応急小口資金の制度から見えてくる、貧困対策の課題を紹介しましたが、今回は住宅の問題を紹介します。
練馬区には2010年度の段階で、20団地793戸の区営住宅があります。(「区勢概要」より)
公営住宅は今、とても厳しい状況にあります。
近年、公営住宅は改築の時に戸数を増やすことはあるものの、新築されていないため、入居希望者よりも戸数が少ない状態にあります。ですから、入居のための条件も倍率もとても厳しくなっているのです。
(倍率は区のHPをごらんください。たとえば、2011年5月募集の際の、ひとり親世帯向け住宅は12.6倍の倍率です。)
入居の申し込みをするためには所得基準の上限があります。そして、入居したあとも、所得が「基準額」を超えると「収入超過」とされ、明け渡しの努力義務が生じます。また、年々家賃が上がっていくしくみになっているのです。
「基準額」は公営住宅法の改定とともに厳しくなっていて、現在は、一般世帯では月15万8千円、高齢者や障害者のいる世帯は月21万4千円です。月の所得がこの額を超えたら収入超過者となるわけですが、しかし、この金額の所得者が高額所得者とはいえないでしょう。
たとえば、ひとり親世帯の場合を考えてみましょう。
小さい子どもを一人もって、母子家庭でお母さんが働きながら子育てをしている家庭があるとします。
ひとりで子育てをしているという条件で仕事を探すのも厳しいため、低所得になりがち。安い家賃の家を探したいところですが、公営住宅は2人家族で年227万6千円以下(※月の基準額に12をかけて、扶養控除分38万円を加えた額)の所得でなければそもそも応募をする対象にすらならないのです。
お母さんの所得がこれより低い状態で、この条件をクリアしたとして、入居してしばらくたち、ようやく子どもが大きくなってひと段落つく時期がきます。
子どもが高校を卒業して働き始めるとしても、卒業したてでもらえる給料も多くて15万円前後でしょう。これで独り立ちして家賃なども自力で払って暮らしていくのは大変ですし、まだ十代ですから、親と暮らしたいという希望があるかもしれません。
それでも、親と子どもの所得を合わせると月収は30万円くらいになってしまうために公営住宅の基準では「収入超過者」になってしまうのです。しかし、「収入超過」といっても、この生活が余裕ある状態とはいえないことは想像に難くないでしょう。
今の公営住宅法は、こういう状態の家庭をも排除するほどかなり厳しい基準になっているため、活用できる人がとても限られているのです。
同時に、公営住宅を利用できる人は所得の低い中でもきわめて困窮状態にある人だけが対象となっているので、入居者はみんな自分の生活にとても困っている状態の人になり、近隣同士で支え合う余裕も持てないかもしれません。
以前、新宿・戸山団地で孤独死防止の活動をしている本庄有由さんにきていただいて講演をしていただきました。本庄さんは、団地に住む人たちが日頃から顔見知りになって孤独死を防ぐために様々なイベントを行ったり、携帯電話を活用した見守りシステムを開発したりしています。
特に高齢になってから新しく入ってくる方は近隣とのつながりを持ちづらく、孤立化・孤独死につながりやすいというお話をしてくださいました。
困窮状態にある人を入居させるだけでその後のケアを行わない、公営住宅のシステムそのものに課題がある中で、市民の立場だけで孤独死を防ぐのは限界があるということを私は感じました。
困窮状態にある人の住まいのセーフティネットが機能しない状態、そしてコミュニティづくりの疎外を住宅政策じたいが招いている事態が見てとれます。
民間のアパートとの連携、福祉政策との連携も含め、年収200万円代の人に対して低額の家賃で住宅が借りられる体制を作って、住まいのセーフティネットを構築すべきではないでしょうか。そうでなければ、生活保護にしか救いの道が見いだせないのです。
※かとうぎ桜子のHPはこちら
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